【ひと言】苦悩する、学校の侵入防止対策

対処療法を続ける現状

門もフェンスも無い車両通用口

現場の声を聞きました

小学校への侵入・暴行事件を受けて、全国へ不安が広がっています。
前述したとおり、危機管理マニュアルの想定をいくつも超える事案だったゆえに、従来の対策では不十分なのでは…といった声が聞こえてきます。

私は、各地の小学校を訪れて児童むけの防犯セミナーを実施しています。
その際、学校そのものの防犯対策について、学校安全担当や管理職の先生方からヒアリング。実際の状況をみながら確認しています。

関東エリアにある小学校では、校長先生からのご提案で、校長、教頭、スクールサポーター(元警察官)、私で学校安全についての情報交換を行いました。

駅から車で5分ほどの自然が多い穏やかなエリア。45年ほど前に建てられた校舎には、約1,000名の児童と約60名の教職員の皆さんがいらっしゃいます。

類似の事案を経験

以前、こちらの学校では、児童を迎えにきた保護者が、教室で他の児童を叱責する事案が発生。児童間でのトラブルを抱えていたため、対象の児童を目の前にして感情的になってしまったようです。この件以降、児童登校中の教室への保護者の立ち入りを原則禁止し、玄関にて教職員が対応&引き渡すことを徹底。

本来、マニュアル的には玄関での引渡しが原則だと思われますが、事案を起こした保護者の児童が心のケアを必要としており、特例としていた教室へのお迎えが常態化してしまったようです。このようなケースは各学校で起こり得ます。

これを機に、校長は「あらためて危機意識を高めた」とおっしゃっていました。

施錠・侵入防止対策の限界

学校の安全対策の理想は、警備の専門職の複数人配置高度なセキュリティシステムの導入防犯対策を考慮した外構と校舎設計もしくはメンテナンス…などですが、こちらの小学校ではそのいずれも皆無な現状にありました。

通学路の見守りボランティアの出入りはあるものの、警備の専門職は配置されず、門や通用口にオートロックは無く、外構には塀や侵入防止柵すら無い箇所が散見されました。とくに、学校の脇にある車両通用口は、老朽化した門が撤去されて開放状態(写真)。車の出入れは便利でも、セキュリティはゼロです。そして、ここにも「予算がない」「予算がつかない」の壁が立ちはだかるのです。

ちなみに、文部科学省では一昨年の学校侵入事件を受けて、防犯カメラ、オートロックシステム、非常通報装置等設置の費用補助を推進していますが、どれも緊急的&対処療法的なものであり、外構・校舎そのもののセキュリティレベル向上にはつながりにくいと言わざるを得ません。

校舎の施錠状況も確認しましたが、児童の出入りが多い校庭への通用口、体育館の渡り廊下への通用口等は常に開放。災害発生を想定すると、避難のためにも施錠はできないとのことでした。

私が見るかぎり、外構・校舎ともに、侵入防止対策はほぼ機能していない状態です。周辺環境や築年数によっても違いやギャップはありますが、多くの小学校では、おなじように施錠・侵入防止対策の限界を抱えているのではないでしょうか。

結局、現状維持?!

今回の事件を受けて、各小学校には緊急の通知文が配信されていますが、危機管理マニュアルの点検、施錠の強化など、これまでの対策と特段変更がないようです。中には、通学路の安全対策とごちゃ混ぜになった内容も…。学校の安全対策そのものに限界がある中で、「現状の学校運営で(無理だけど)、防犯対策も取り組む(がんばる)…」という苦しい状況が、あらためて表出しています。

元警察官のスクールサポーターの方も、現状の厳しさを指摘していました。せっかくの危機管理マニュアル、そして侵入者対策訓練の形骸化…。過去の事件のみならず、想像力をフルにつかった実践的なトレーニングが必要です。それは、ワークショップのように、教職員ひとり一人の知恵と力を引き出すような視点がもとめられるのだと思います。

さらに、校内連絡・警察への通報体制の弱さもあらためて痛感しました。こちらの小学校では、教職員の勤務時間中は“不必要に取り出さない”を条件にスマホ所持をOKにしているとのこと。最近、校内での教職員による盗撮防止を理由に勤務中はスマホをロッカーにしまうケースも多い中では、すこし安心できる状況でした。ただ、所持は個人の判断のためバラつきも。また、緊急時に誰もが通報する体制ではないとのことで、心配も残ります。

また、校内の連絡体制は、教室に固定されている内線電話とのことで、使い勝手はいまいちな印象です。学校によっては、校内での勤務用の携帯端末(外部通話も可能、カメラなし)が配布されているところもあるとか。その差は、何でしょうか…?

避難かロックダウンか

スクールサポーターの方いわく、ここ数年、侵入者対策における児童の安全確保の方法も選択肢が増え、いわゆるロックダウン(教室にこもる)を採用することが増えているとのこと。侵入者の状況次第では、大勢で廊下を避難すること自体(速やかに動けないこともある)が危険を招いてしまうからです。

一方、ロックダウンの際、教室のドアにカギがかからなかったり、机とイスでバリケードを築いたら内線電話が使えなくなるケースも…。そもそも、教室はバリケードを想定していなかったため、予想外の不具合も生じてしまっているそうです。とくに、ロックダウンしたものの、校内や外部と連絡がとれない…は絶対に避けなければいけないことです。

ちなみに、テレビの収録でバリケードを築いたところ、机とイスの構造上うまく組み合わず、強度が維持できませんでした。縄跳びやモップの柄などを活用して固定化をする知恵も必要です。

あらためて対策を考える…

予想どおり、現場の先生方からは、「無理だけど…、がんばる!」というメッセージをいただきました。しかし、情熱と気合だけでは学校の安全を守ることはできません。もしかすると、学校の現状を知らない人たちは「何とかなっているのでしょ?!」という誤解もあると思います。学校の安全対策、じつは何ともなっていない状況を知っていただきたいのです。

さて、厳しい現状や理想ばかり述べてもしょうがないので、少し現実的な視点からあらためて侵入防止対策を考えてみましょう。

●侵入防止を重視した外構のメンテナンス
校舎の施錠が厳しいため、外構の侵入防止対策と施錠が最善の方法となり得ます。フェンスの高さを上げる、セキュリティ面(高尺)と使い勝手がよい(軽量)門を設置する、門と通用口のオートロックを確実に設置するなど。

●敷地内の動線の整理
敷地内では、校庭側エリアへ回り込めない侵入防止対策も不可欠です。通路への柵や扉(施錠)の設置をはじめ、来校者のルートを明確化して受付対応がしやすい環境をつくりましょう。

●校内使用の業務用スマホの配布
カメラ機能がついていない業務用スマホを全教職員へ配布し、①校内連絡、②緊急通報が速やかに行える体制を整えましょう。

●緊急通報ができる環境づくり
業務用スマホの配布とともに、経験値を問わず全教職員が110番通報できる環境をつくりましょう。その際、結果的に事件でないケースが生じても責任を問うようなことは絶対NG。どちかといえば、対応を認め合えるような環境づくりもあわせて行いましょう。

●知恵とチームワークを活性化するトレーニング
学校の状況を確認し、侵入防止対策上の「弱さ」を知ること、そして、知恵を出し合い「強さ」を探してみること。ここで言う弱さとは、侵入されやすい状況、連絡・通報手段の脆弱さ、教職員の意識や認識のズレ…など。強さとは、外構ですぐにできる侵入防止対策(フェンスのメンテ等)、侵入者に対して防護・抵抗できる道具の確認、緊急時の連絡・共有の手段やサインの確認などです。

いま、学校安全で注目されるのが、各種防犯グッズです。催涙スプレー、スタンガン、ネットランチャー…。導入する際は、児童たちとの生活の中で危険性がないことが最優先事項です。また、過度な防犯は不安を与えてしまいます。私は、日常の中に防犯を溶け込ませることがコツだと考えています。このあたりも知恵がもとめられますね。

市民防犯インストラクター 武田信彦(ヨッシー)

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