いま、全国的に「地域防犯力向上」が課題となっています。これまで、地域防犯を支えてこられた防犯ボランティアの高齢化、メンバー減少などが背景にあります。地域や子どもたちの安全のためには不可欠な存在である地域の市民防犯。
地域防犯を元気にするためにはどうしたらよいのか…。日本の防犯ボランティアをみつめてきた市民防犯インストラクター武田信彦の視点から、ポイントを解説します。
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日本の防犯ボランティアの特徴
日本で育まれてきた防犯ボランティアには大きな特徴があります。それは、①地域住民の自主活動の側面と、②政府の治安対策の施策の側面です。本来、ボランティア活動は①の要素のみで構成されることが多いのですが、防犯分野においては、平成14年に刑法犯の認知件数が過去最多を記録したことを受けて、当時の犯罪対策閣僚会議にて警察・自治体等と地域住民の連携による治安対策を推進することが定められたのです。その後、全国の自治体では続々と安全安心に関する条例が制定される、防犯ボランティアの推進事業が広がる…などしました。
そのため、防犯ボランティアは、地域住民の自主活動ではあるものの、警察・自治体等の防犯対策の施策のひとつにその推進が組まれているです。このことは、連携・協働の面では大きな原動力であるものの、「ボランティアの数を増やす!」といった施策面の事業目標だけが先行すれば、地域住民との間に意識ギャップやサポートの空回りが生じかねません。市民防犯のあり方、意義、効果などを正しく理解の上、適切なサポートを行うことがもとめられます。
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防犯ボランティアの現状は様々
私は、平成9年に防犯活動へデビューしました。当時は「防犯ボランティア」という分野も言葉も確立しておらず、「防犯を行うボランティア団体です…」など活動の説明が難しかったことが思い出されます。一方、繁華街を中心に、すでに防犯分野で活躍するボランティア団体は当時も存在していました。すでに20年以上も活躍している団体をはじめ、最近「ながら見守り」を始めた個人まで、いま、防犯ボランティアが置かれている状況は様々です。
全国を巡っていると、多くの防犯ボランティアの皆さんに出会います。質問を受けたり、悩み相談を受けていると、いくつかの段階が見えてきます。①始動の段階。「始めるぞ!」という情熱にあふれ、ユニフォームや名称を決めるなどワクワクが多い段階。この段階で、防犯ボランティアの意義や効果をしっかり確認することが重要です。②継続の段階。活動を始めて5年、10年が経ち、多くのやりがいとともに、そろそろ継続のあり方で悩みが増えてくる段階。負担感の解消や活動そのもののリフレッシュも必要なのかもしれません。③模索の段階。15年、20年と活動を継続され、もはや地域の「安全文化」といえる存在に。メンバーの高齢化や参加人数の減少も顕著になり、従来型の取り組みを変容するなど、安全文化の継承のために、あり方そのものの模索が必要となります。
防犯ボランティアの研修では、様々な段階の皆さんが集まります。それぞれがヒントを得ていただけるようなプログラムがもとめらるのです。
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地域防犯力の向上を目指すためには
地域防犯力向上のためには、何より、地域住民による自主性や主体性を尊重することは言うまでもありません。さらに、防犯力を元気にするためには、いくつかのアプローチが必要であると考えます。
①既存の防犯力の活性化。すでに活躍している防犯ボランティアの皆さんをしっかりサポートすることです。そのためには、ひとつ前で述べたとおり、様々な段階が入り乱れている状況を理解することが重要です。また、モチベーションアップのために一番重要なことは、意義や効果、可能性を繰り返し伝えていくこと。自分たちの活動が誰かの役に立っている、間違いがない、効果があるんだ!と感じられることこそ、地域防犯活動のエネルギー源となるからです。②潜在的な防犯力の掘り起こし。地域の安全、子どもたちの防犯に関心を寄せる人たちは大勢います。「きっかけ」がないために、防犯ボランティアとしての活動に参加していないことも多々あるようです。とくに保護者世代のみなさんは、子どもの防犯対策に関心が高く、通学時に自主的な付き添いを行う方もいます。その方たちこそ、潜在的な防犯力といえる存在です。関心がある、気になる、心を寄せる…、その人たちが地域防犯の取り組みに参加できる、一歩踏み出しやすい環境づくりも急務です。③新しい防犯力の創出。学生防犯ボランティアなどは、新しい防犯力といえる存在かもしれません。また、地域の企業とのコラボ、最新技術の導入、斬新なアイディアの採用など、まだ見ぬこれからの防犯を形作る要素を積極的に探し続けることも、地域防犯の存続に欠かせないことです。現状、人に勝る防犯なし。まだまだカメラやロボットに任せられない分野ですが、この先、おしゃべり機能や認識機能、通報機能など「見守り」の性能を備えた機器が登場したら、頼りになるかもしれませんね。
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お読みいただき、ありがとうございました。
これからの時代、多様な人々による、多様な見守り…がキーワードです。地域や子どもたちを守る防犯ボランティアがますます元気になるよう、スタイルも広がるよう、私自身も発信を続けてまいります。
市民防犯インストラクター武田信彦