子どもの防犯入門

子どもだけになりやすい日本の環境の中で、子どもがもつ「自分を守る力」が不可欠な状況です。子どもたちの防犯力をいかに高めるのか。実践経験・指導経験が豊富な市民防犯インストラクター武田信彦が、子どもの防犯について分かりやすく解説します。

※ここでいう悪意・犯意の範囲は、街頭(屋外)における子どもに対する暴力、性犯罪、わいせつ、略取・誘拐、悪質な声かけ、つきまとい等です。

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こちらでは、おもに教職員の皆様対象の研修にて伝えている、子どもたちへの防犯指導のコツを中心に解説します。市民防犯として扱う「個人」の領域となります。

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防犯は、伝える際のバランス感覚をもとめられる分野です。「悪い人がいる」だけの情報は、「人は信用できない」につながります。悪意・犯意がある者の存在だけでなく、善意をもって見守り・助け合いを実践する人々の存在も伝えるべきです。また、ひとり一人には「自分を守る力」があることも確認する時間です。

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注意点もあります。細かな犯罪の手口や被害の状況を伝えることは、心にトラウマを生じさせる危険性があるので、表現や伝え方には配慮が必要です。また、身を守ることと暴力は違います。「悪い人は、やっつければよい…」など暴力を肯定するメッセージは不適切です。また、性別、年齢層、外見などで悪意・犯意がある者を決めつけるような表現にも注意が必要です(例:怪しいおじさん…等)。防犯は、捉え方によっては、差別分断正義の暴力を生み出し兼ねない要素も含むため、慎重に扱う必要があるのです。

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「自分を守る力」とは、特別なものではありません。防犯は、家庭や学校で身に着けたコミュニケーション力をベースとした「生きる力」の実践の場といえるものです。子どもたちが身に着けた多くの力が、いかに「自分を守る力」として発揮できるのか。その確認の場こそが、防犯教育なのではないでしょうか。

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難しいことのひとつが、「防犯」の説明です。ここでのポイントは、「」の表現です。特定のキャラクター(例:知らない人、コワい人、不審者…等)を表す表現は避けるべきです。なぜなら、①悪意・犯意がある者の性別・年齢層は様々で特定できない②外見や雰囲気等だけで悪意・犯意を判断することは難しく、さらに差別意識につながる…からです。

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市民防犯入門」でも解説しているとおり、社会や地域では、子どもの犯罪被害を防ぐために「子どもだけになる瞬間」「ひとりになる瞬間」を減らす・無くす取り組みが進められています。一方、子どもたち自身も、外での振る舞い方、道選びなどにおいて「ひとりにならない」の意識を持つ必要があります。そのことは、子ども、大人、地域の防犯力を重ね合わせることにつながります。

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一方、地域での見守り・助け合いの取り組みには限界があり、日本では多くの子どもたちが「子どもだけでの行動」をしている現状があります。「ひとりになる瞬間」こそ、犯罪被害リスクが高まりやすいので、「自分を守る力」を知っておく、実践する必要があるのです。

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暗くなったら危ない…、ゴミの多い道は危ない…など、シーンを限定せず、子どもの行動範囲の中で「ひとりになる瞬間」はすべてに注意が必要です。通学路や公共のエリアのみならず、マンションの敷地や自宅の玄関周りなど「自宅周辺」でも注意が必要です。玄関のカギを開けて、閉めるまで、すべての場面において防犯対策が欠かせません!

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大人の言う「気をつけて」は、子どもたちには伝わりにくい表現だと思います。私は、「ひとりになったら、あんぜんスイッチ、オン!!」と伝えています。「自分を守る力」を元気にするのが、あんぜんスイッチです。自分を守ることを忘れない、自分を守る力を発揮するキーワードです。

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あんぜんスイッチを入れたら、すぐに使ってほしい「自分を守る力」が、まわりをよくみる、よくきく=観察力です。小学低学年生では、並行視野が狭いため、全身の力をつかって前後左右をしっかり確認する習慣が重要です。私は、「だるまさんが、ころんだ!!」で振り返る練習をしています。危険を察知する、悪意・犯意がある者にコントロールされにくくなる抵抗力を生み出す効果が期待できます。

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さらに、よく見るべきものが、人ととの距離感です。最近では、地域でのあいさつを避ける人も増えていますが、あいさつは防犯上も重要な要素です。しかし、あいさつ時の「長さ」をしっかり確認しておきましょう。大人の手が届かない程度の距離感を知ることは、お互いの安全マナーといえるものです。

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悪意・犯意ある者から身を守るためには、心理的な距離感も不可欠です。誘いお願いごと変だな?と感じること…等に対しては「できません!」とキッパリ断りましょう。様々なシチュエーションが想定されますが、私は「できません!」だけで練習しています。パニックになると言葉が出てこなくなるからです。ちなみに、日本人の最も苦手なコミュニケーションが、「断る」ではないでしょうか。

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私が考える「逃げる」とは、「保護されるまで」と捉えています。すなわち、危険を感じた場合は、一番近くの助けてくれそうな大人がいる所まで急いで向かうことが、逃げるです。公共施設、お店、友達の家、子ども110番の家など、行動範囲の中にある逃げるこめる場所をたくさんみつけておいてください。万が一の際、すぐに足が動き出せるための心の準備になります。

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コミュニケーション力の中でも難しいもののひとつが、「助けて!を伝える」です。大きな声での「助けて!」も有効ですが、気になることや心配なことがあった際に身近な大人にすぐに伝えることも、自分を守る大切な力です。相談を受けとめる、異変に気付く…など、大人の側の心の準備も欠かせません。

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防犯グッズでほぼ唯一、一般市民が安全に持ち歩ける道具(催涙スプレー、スタンガン等は使用によって加害リスクが生じる)が、防犯ブザーです。伝える逃げるといった子どもがもつ対処力をサポートしてくれる重要な道具なのです。デザインよりも丈夫さや音の大きさで選んでください。また、身に着ける際に個人情報は記載しないでください。

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小学館『小二教育技術』平成26年12月号

私は、子どもでもできる「逃げるワザ」も教えています。戦って勝つことよりも、逃げる方が選択肢が多く、子どもでもできるワザがあるからです。ポイントは、小手先のワザではなく、全身の力を上手に使うこと。とくに、腰をつかってスイングする力は、子どもがもつ最も強い力なので、その力を活かしたワザを伝えています。なお、護身術を使わないことが一番なので、冒頭で伝えて「ひとりにならない」や「観察力」を発揮することがより重要です。

※私が執筆・監修を務める(公財)ベネッセこども基金の防犯コンテンツとも内容がリンクしています。また、コラムを連載しています。ぜひご覧ください。

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お読みいただき、ありがとうございました!
お子様の防犯力向上やみなさまのご活動にぜひお役立てください。

市民防犯インストラクター武田信彦

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