【ひと言】学校安全、みんなで真剣に考える!

危機的状況にある学校の安全対策

子どもたちと教職員のみなさんを守るために!

大変残念ながら、小学校への侵入・暴行事件が発生してしまいました。
連日、メディアの取材も受けており、ここに、市民防犯の視点から課題やポイントをまとめておきたいと思います。

私は、防犯の講師として全国各地の小学校を訪れています。
文部科学省と教育委員会が実施する学校安全担当の教職員研修も多く担当させていただいております(こちら)。また、学校の安全対策についても、個別に相談・助言を行う機会があります。

学校の安全対策は、過去の重大事件の経験から、長年に渡り多くの知見が反映されて対策が練られてきました。また、学校保健安全法に基づいて全小学校で「危機管理マニュアル」も作成されています。
一方、残念ながら度々侵入事件は発生しており、対策の難しさや課題は山積です。

今回の事件では、教職員の皆さんが危機管理マニュアルの行動指針に基づきながらも、児童を守るため臨機応変に対応されたのだと思います。負傷された先生方や児童の皆さんの心のケアが適切に行われますように。

想定外

一方、マニュアル的な点からは3つの想定外があったのかもしれません。

人物= 関係者(知人)による侵入&暴行
②人数= 複数名(2名)による侵入&暴行

③目的= 特定の人物を狙った疑い

危機管理マニュアルでは、「関係者」と「関係者以外」とを分ける傾向が強く、悪意・犯意ある者を関係者以外に括ることがほとんど。過去に発生した事件の経験を反映した侵入者対策では、①関係者以外の人物が②単独で③不特定多数を狙って…侵入することを想定しているのではないでしょうか。ただちに、このあたりの想定を広げる必要があります。

人物 : 悪意・犯意ある者は、老若男女問わずに存在しています。日本の防犯対策でいまだに語られる「知らない人には気をつけろ」では、防犯対策を弱めることになります。どのような人物であっても、言動に違和感がある場合は、警戒心を向ける必要があるのです。

人数 : 単独のみならず、複数による侵入も想定するべきです。同時の場合、同時多発の場合も。”単独”への思い込みが、被害拡大を招く危険性もあります。また、万が一、事案が発生した場合は、その対応に全集中するのではなく、周囲へも意識を向けることがもとめられます。

目的 : 過去の経験から、凶器等を用いた不特定多数への殺傷が想定されがちですが、特定の人物への攻撃や連れ去り(トラブル、ストーカー等)、動画撮影・配信、目的不明…といった想定も必要です。また、目的実行のため、悪意・犯意を隠して、関係者(保護者、地域住民、事業者等)を装う、困り事を装うなど巧みに侵入を試みることが想定されます。

小学校のジレンマ

とはいえ、現状の学校運営では、その安全対策に限界があります。
理想的な対策といえば、警備の専門職の複数人配置高度なセキュリティシステムの導入防犯対策を考慮した外構や校舎設計…などでしょうが、導入されている学校はわずか…。「予算がない」「予算がつかない」の壁が立ちはだかるのです。教育現場の安全確保に対する意識レベルを上げる必要性を強くおぼえます。

また、とくに公立の小学校の安全対策では、特有の難しさがあります。

①防犯対策と開かれた学校のジレンマ
②広い面積を少人数でカバー

「私たちが体を張って子どもたちを守ります!でも、校門は施錠しません…」
最近訪れた小学校の校長先生がおっしゃっていたコメント。ここに、公立の小学校のあり方の難しさとジレンマが表れています。学校は、子どもが学ぶ場であると同時に、保護者や地域の皆さんがゆるやかにつながり合える貴重な公共の場でもあるのです。子どもを守るために閉じたいけれど、地域には開きたい

また、小学校の敷地面積と建物面積は広いのです。とくに、かつての大規模校では、児童数&教職員数が減少する中で、広い面積を少ない人員でカバーしなければいけません。ここにも、侵入者対策の難しさがあります。

すぐにできる対策

私の立場からは、対処療法的なことしかお伝えできないのが心苦しいのですが、現状の学校安全の体制が続く中では、すぐにできることをすぐに行うことが重要です。追加の予算はかからないと思います。

①既存の防犯設備の確実な活用
②教職員の意識&チームワーク力向上

防犯設備の活用の面からは、施錠こそが侵入防止の最善策です。
とはいえ、児童が登校している校舎を完全に施錠することはほぼ不可能ではないでしょうか。来校者が訪れる玄関は確実に施錠管理するべきですが、校庭への出入り口、体育館へ続く渡り廊下の出入り口などは、災害発生時の避難を考慮すると施錠できません。

すなわち、現状では、門と通用口を施錠することが先決であるといえます。
そもそも、門はしっかり閉めておくこと。これは、教職員のみならず、来校する人たちの意識も欠かせません。日ごろの慣れで、いつの間にか開けっ放し…の学校はよく目にします。また、インターホンで確認して解錠するなど、マニュアルに基づいた対応を確実に行いましょう。心は地域に開き、門と通用口は閉める…を実践いただきたいのです。

また、せっかく作成した危機管理マニュアル、学校安全担当と管理職の先生だけが把握しているのでは効果を生みません。教職員全員が自分事として理解することで、ひとり一人が柔軟に行動できるための心構えとなり得ます。

そのほか、防護・抵抗につかえる道具の確認と配置、教職員間の連絡・警察への通報手段の確認、児童の避難・ロックダウンの手順…など、すぐにできることをすぐに行ってください。

コミュニケーション力

そして、危機対応で重要な要素が、チームワークです。
現状の学校安全では、教職員のみなさんのチームワークこそが、一番の防犯力となり得ます。そのためには、コミュニケーションが大事!とくに危機的状況では、瞬発力あるコミュニケーションがもとめられます。いきなりできるものではありませんよね。日ごろから、気になることを伝え合える、相談ができる、アイディアを活かし合える、そして、あいさつやありがとう!を伝え合える雰囲気づくりが欠かせません。管理職の先生方が率先して、活性化いただければと思います。

コミュニケーションが豊かな学校は、校内に入るとすぐに分かります。
元気なあいさつ、素早い声かけなど気持ちよく対応いただけるからです。これは、悪意・犯意ある者に対しても、行為が実行しにくくなる一定のインパクトがあるはずです。

いま、小学校の安全対策は限界をむかえ、危機的状況にあります。
子どもたちや先生たちが、安全かつ安心してすごすことができる学校のあり方を社会全体で真剣に考える段階にきています。

市民防犯インストラクター 武田信彦(ヨッシー)

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“【ひと言】学校安全、みんなで真剣に考える!” への1件のコメント

  1. […] 現状の学校運営では防犯対策に限界があることを前提に、あらためて、子どもたちと教職員の皆さんの命を守るためのポイントを解説しました。学校安全についてはこちらにまとめています。 […]